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2011/01/10

ロック母 / 角田 光代

ロック母

ロック母
角田 光代

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25歳時の芥川賞候補作「ゆうべの神様」から川端賞受賞作「ロック母」まで、15年に渡る7つの短編がおさめられている。

・ゆうべの神様
夫婦仲の悪い両親のもとで暮らすマリコの話。閉塞的な村で周囲の住民に家庭のことを干渉され、苛立をつのらせていく。どこまでも続く夫婦の醜いいさかいであったりとか、底意地の悪い村人たちの態度なんかを見ていると不快な思いが蓄積されていくのであまり好きな話ではないのだけれど、25歳の頃の角田さんの尖り方が見えるのは面白い。

・緑の鼠の糞
タイのチュンポーンという町で目的無く過ごす主人公と、お寺で知り合った日本人男性コウちゃんの話。読んでいて「真昼の花」を思い出した。角田さんはほんとアジアでぼんやり過ごす人を書くのがうまいよなぁと思う。でもそこからきっと抜け出せないであろう様子が怖いような気もする。

・爆竹夜
上海で人々に粗雑な扱いを受け、飲食店ではぼられ、疲弊しきっていた主人公が、仕返しのためのある思いつきを実行しようとする話。慣れない異国の地で過剰なものにもまれ窒息しそうになった人が、日本であれば絶対に思いつかないであろうことをやろうとするという一種の病み方が怖い。

・カノジョ
不倫の末、前妻と別れた彼と一緒に住むことになった主人公。前妻の色が濃く残るその家で、自分と同じように彼と向き合っていたであろう前妻に近しさを感じる一方で、起こり続ける奇怪な出来事のせいで存在に飲み込まれそうになる話。見たことのない何者かの存在によってぐらぐらと静かに揺さぶられていく様がリアル。多分その存在を膨れさせ恐怖の対象にしているのは自分自身。

・ロック母
シングルマザーになることを決意して、身重のまま島に帰ってきた主人公。彼女を待っていたのは、彼女が置いて行ったニルヴァーナを大音量でかけて人形の服を縫う母親だったという話。爆音でつくった要塞の中で母親が何を考えているのか娘にはわからない。一般的には至福感を味わうのであろう妊娠中なのに、誰にも望まれない子供を宿して惨めな気分になる主人公の様子ではじめは悲しい気持ちで読んでいたけれど、読み進むにつれてどこか救いが生まれる。

・父のボール
自己中心的な父親を恨む主人公が、余命いくばくもない父親の病室で死の瞬間を待つ話。
積もり積もった憎しみが死と対面することで変化する様の描き方がうまい。

・イリの結婚式
新疆ウイグル自治区の取材に同行したウイグル族の若い女性アミナさんは、運転手の漢族の青年孫くんに対して冷たい。民族意識の強い彼女は他の民族を認めていないからだ。民族間の対立を見ながら主人公は自分と元婚約者との関係の破綻について考えを巡らせるという話。民族が違うわけでもないのにどうしてわかりあえなかったのか。恋人間、夫婦間、家族間。日本における様々なぶつかり合いについて考えさせられ、そして今まで読んで来た他6編でのいざこざとオーバーラップする。

それぞれの執筆時期が離れた作品たちであるので、手触りは大きく違う。
けれど芯に通る角田さんの色は同じで、それぞれの主人公たちは冷えた黒い何かを抱えて生きている。
後半、「ロック母」「父のボール」「イリの結婚式」は、終わらせ方が本当に素晴らしい。
わかりやすいオチの付け方では決してなく、けれどうまくふっと昇華させて読み手の気持ちも軽くなる。
15年という時間の間に、変わることなく描きたい芯は存在し続け、その一方でその芯を彩る技術はこうも変わっていくのかというところが面白かった。

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