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2009/10/10

映画「空気人形」

Kng空気人形

監督 : 是枝裕和
原作 : 業田良家「ゴーダ哲学堂 空気人形
出演 : ぺ・ドゥナ 、 ARATA 、 板尾創路 、 オダギリジョー 、 高橋昌也、 星野真里、 富司純子、 寺島進

私は空気人形。空っぽな、誰かの「代用品」。

はじめはWorld's End Girlfriendが音楽を担当した、ということで興味を持った作品。しかも主演がぺ・ドゥナ。ベジとドナのCM以来気になっていた美しい女優さん。
仕事後に渋谷のシネマライズへ。

中年男性の秀雄は、寂しげな小さな町にある自室のアパートに空気人形を置き、自分の彼女のように扱って生活をしている。
しかし、ある日その空気人形は心を持ち、動きはじめる。
外の光を目にした彼女から言葉が溢れる。
「キ…レ…イ」
街に出た彼女は、レンタルビデオ店で働く純一と出会うが・・・という話。

私は、「心」を持ってしまいました。
持ってはいけない「心」を持ってしまいました。

この作品は、込められたメッセージと、それを伝えるための設定が非常によく考えられていて、それぞれの対比が面白い。
たとえば、身体の中が空っぽだけれどあたたかい心を持った純粋な空気人形に対して、身体の中は空っぽじゃないけれど心が空っぽな現代の人々。
身体の中が空っぽで、ただ産まれ死んでいくだけの生き物「カゲロウ」の話。
歳をとらない空気人形と加齢を怖れる女性。
食事をしない空気人形と過食嘔吐の女性。
誕生日も家族もない空気人形と父親に誕生祝いをされる女の子。

誰もが自分の中の空虚や欠落を埋めたくて、でもその埋める方法がわからなくて手近な何かに逃げてしまって、そこから抜け出せなくなる。
空気人形の持ち主秀雄も、結局は女性との関係を築いていくのが面倒で、全て自分の言いなりになる人形に逃げている。彼は職場ではうだつのあがらない下っ端なのに、人形の前では部下に叱責するような理想の自分を演じ、何だか悲しい。
そこに幸せは、美しさは、あるのだろうか。
片目を瞑って何かを見ないようにして、騙しているだけなのではないだろうか。

自分の投げた石が、誰かに波紋を起こすかもしれない。
世界は人と人の関わりで成り立ち、それは幾重にも波を起こす。
それは時には面倒なことも齎すかもしれない。
でもそのハーモニーは、きっと、最後には美しく鳴る。
孤独、空虚、欠損、欠落。
それらを満たすのはそういうものなのではないだろうか。

事故によって空気が抜けてしまった空気人形は、愛しい純一に息を吹き込まれることで本当の「生」を得る。
恥じらいや悦びを凝縮したその甘美なシーンは、欺瞞も駆け引きもない、純粋な愛すること愛されることの幸福感を伝えているように思う。
私たちは歳をとればとるほど、この純粋な思いを忘れていってしまっていないだろうか。

この映画は、人形が人のように動きだすというファンタジーである。
下手すると安っぽいものになってしまうその設定は、ぺ・ドゥナという素晴らしい女優とWorld's End Girlfriendの美しい音によって見事に結実している。
美しい音と光に包まれたキレイな世界。
世界に初めて足を踏み出した空気人形の視点がそのまま絵になっているかのような雰囲気。
ああ、そうだ。
世界はこんなにもキレイで、こんなにも驚きと発見に満ちていた。
私たちは日々その世界に生きている。
殻に閉じこもって目を瞑ってしまったらどれだけ勿体ないのか。
この世界の「キレイ」をたくさん見て、触れて、関わっていくこと。
それは自分次第でいくらでもできるのだ。

そして、ぺ・ドゥナが朗読する吉野弘氏の詩「生命は」が素晴らしい。
サントラにも収録されているのだけれど、私はこの朗読を聴くと涙がこみ上げてくる。
自分自身で完結できない生命、その欠如をお互いに知らず知らずに満たし合って世界ができていることをうたっている。
この映画で言いたいことが見事に濃縮されている、美しい詩。

空気人形 O.S.T.

空気人形 O.S.T.
World's End Girlfriend

この映画の世界観を支える、美しいサントラ。
WEGの音楽にのせた、ぺ・ドゥナのよる吉野弘氏の詩の朗読「水野線路/生命は」が素晴らしい。
その他の曲もとてもよくて、この曲を聴きながら見る光景は、何だか普段よりもずっと美しく見える。
おすすめのサントラ。

この映画の印象が、何となく岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」と重なった。
美しい音楽に包まれた、透明で脆くて美しい世界の、少し切ないお話。

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コメント

TBありがとうございました。
題材は刺激的でしたが、語り口は詩的で、雰囲気は素敵でした。
いい映画です。

投稿: かみぃ@未完の映画評 | 2009/10/11 02:10

コメントありがとうございます。
たしかに詩的だからこそ成り立っている映画ですよね。
観てよかったです。

投稿: *yuka* | 2009/10/11 21:08

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