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2009/09/02

オテル モル / 栗田 有起

オテル モル

オテル モル
栗田 有起

第131回芥川賞候補作

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悪夢は悪魔

会員制地下ホテル「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」は、都会のビルとビルの間を抜け、そこに密かにある地下へと続く階段を下りた先にある一風変わったところ。
ホテルはまるでもぐらの塒のように全フロア土の中、地下13階建て。
チェックインは日没後、チェックアウトは日の出まで。
お客様に最良の眠りを提供するためだけにあるそのホテルで、「誘眠顔」の希里はフロント担当として働きはじめるが…という話。

希里には薬物中毒の妹、沙衣がいる。
双子のはずなのに、周囲の人を惹き付けるのはいつも沙衣。
繊細でよく気がつく沙衣は、もともと身体が強くないのに薬物中毒になってさらにぼろぼろになってしまう。
すぐにでも壊れてしまいそうな沙衣とマイペースでおっとりとした希里は双子なのに正反対。自由勝手に生きる沙衣と、それを影から支える希里とは、周囲に「陽と陰だ」と言われる。
そんな沙衣に希里はあっさりと彼氏をとられ、沙衣は妊娠し、一人娘の美亜を生む。
薬物中毒の治療の為に入院したっきりの沙衣の代わりに、希里は元彼氏でもある沙衣の夫西村さんと同居をし、美亜を育てるという複雑な環境に身をおいている。

普通であれば、どろどろとした争いが起こりそうな筋書きだけれど、この作品は全くそうではない。
希里は静かに苦しみを抱えてはいて、ホテルへの就職もその辛い状況から少しでも遠ざかる為のものではある。
けれど彼女は決して妹を憎むこともなく美亜へも愛情を注ぐし、そもそも眠りのための不思議なホテルに象徴されるように、ストーリー全体が夢の霧に覆われたような印象の話なので、感情とか諸々の波が押し並べて穏やかでふわふわとした印象がある。

昼と夜。
覚醒と眠り。
地上と地下。
陽と陰。
現実と寓話。
相反する要素の共存によって世界は成り立ち、そのどちらかだけでは途端に崩れてしまう。
「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」は、前者の世界で満たされない者たちを後者の世界で満たしてあげる為の存在である。
光の裏でこっそりと息づくそれらは、静かな魅力をひっそりと湛え、眠りの隙に雪崩れ込む。

夜の闇に支配された不思議なホテルを舞台に繰り広げられる、夢の続きのような話。
私もこのホテルで眠って、自分に必要な夢をみてみたい。

オテル モルの詳細情報はこちら

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