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2009/04/18

掏摸 / 中村文則

掏摸 中村文則さんの「掏摸(スリ)」を読んだ。

中村さんの作品は、以前第133回芥川賞をとった「土の中の子供」しか読んだ事がない。その時書評を残さなかったので詳細を忘れてしまったけれど、ただただ暗く塞ぎ込むような内容で些とも面白くなかった印象がある。
基本的に私は暗い話も好きなのだけれど、ただ暗いだけで多分ひきつけるものが無かったのだと思う。
ところが、今回の作品は違った。

子供の頃から掏摸をしている主人公が、犯罪に巻き込まれてしまうという話。

彼が何故掏摸になったのか。
冒頭、彼のその生い立ちの背景に、霧に覆われ、輪郭だけが浮かび上がる古い白昼夢のような塔が登場する。
霧に煙る陰惨な歴史を持つロンドン塔のようなイメージが植え付けられ、物語はその空気を含んで暗く静かに進行していく。

大人になった彼はプロの掏摸として生活するのだが、掏摸をする場面の描写はリアリティがあり、繰り返しでてきても飽きさせない。
こういう場面を丁寧に描くかどうかで、その作品の重みが決まる気がする。
下手な人が描くと、ただ盗むだけで終わってしまい、主人公が持つ緊張感などが共有できない。

彼は、母親に愛されず万引きを強要される子供と出会う。
幼き日の自分の姿に重ね、不器用な愛情を注ぐ。

やがて木崎という、ヤクザ紛いのあやしい男に声をかけられ、犯罪に加担することとなる。
この木崎はただ暴力的なのではなく、一寸狂った思想を持っている。
強い者が弱い者を支配し、甚振り、その人生に神のように君臨することの快楽をとなえ、それを実践していく。
この木崎を取り巻く恐怖の空気は、どこか花村萬月の「ブルース」に登場するヤクザの徳山を思わせた。

掏摸としてしか生きられない主人公、その光のあたらない人生を描いたこの話は構成も描写もどれも丁寧につくられていて非常に面白かった。満足感の高い作品。
こういう丁寧で面白い作品を読むと、やっぱり小説はこうでなくちゃ、と思うのでした。

書籍の詳細はこちら

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5時55分に目が覚める。昨日はかなりよく寝たので、そのまま起きて、外はすごい勢いで雨が降っているのでやる気をなくし、倉橋ヨエコの「解体ピアノ」を小さい音でかけながら昨日の文藝の続きを読む。 中村文則さんの書き下ろし小説「掏摸(スリ)」。もう私は本当に小説に疎... [続きを読む]

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……そいつは、相手のコートのボタンを外し、その首から下げたガマグチから、中身の金 [続きを読む]

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