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2009/03/20

だれかのいとしいひと / 角田光代

Darekano

だれかのいとしいひと
角田光代

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いわゆる「恋愛小説」の一般的な枠から一寸ずれた、不器用でどこか切ない話たちを集めた作品。

転校生の会

元転校生たちが集まって、ぽつりぽつりと話す不思議な会合「全国転校生友の会」。元転校生ではないけれど、自分をふった元カレが言う「転校の経験の有無による絶対的な違い」を理解したくて潜り込んだ主人公の話。
人が一生の間に様々な人と出会い、別れ、進んでいくことについて考えてしまった。
読後には、ぼんやりとした光の中に、ひとときを共有する幻の学校の幻の同級生たちの輪郭が滲む。

ジミ、ひまわり、夏のギャング

元カレの家に忘れたポスターを持ち帰る為に、無断で元カレのアパートに忍び込む話。
猛暑と向日葵と終わってしまった恋の記憶とが交錯し、ねっとりと茹だるようないつまでも続くかにみえた温度の後に、爽やかな風が吹く。
場面描写が美しく、映画的だなと思った話。

バーベキュー日和(夏でもなく、秋でもなく)

親しい友人と何もかも共有したくなり、友人の彼氏と浮気をしてしまう癖のある女の子の話。
「慕う」ことの延長で、根掘り葉掘り詮索してきたり、何でも真似したがる子というのはたしかに世の中にいて、それが病的にひどくなるとこの主人公のようになってしまうのかも。
結局「自分」がなくて、自分が好きな友人の真似をするという方法しか見つけ出せない不器用さ。
本人は本人で大変なのだろうけれど、私だったら友達になりたくないや。こういう人は結局自己愛の塊だから。

だれかのいとしいひと

別れそうなカップルが、小さな姪っ子を交えて3人でお出かけをする話。
だれかのいとしい人とのひとときの繋がり。
そのふたりの関係が壊れてしまえば切れてしまう、儚い繋がり。
いつかふと思い出すであろう、その短く儚い繋がりの、小さくともそのひとときのきらきらを覗き見た気になる。線香花火のぱちぱちとイメージが似ているかも。

誕生日休暇

誕生日休暇を一人でハワイで過ごす事になってしまった主人公。
惨めな気分で飲んでいると、訳ありの男性と知り合い、彼と結婚相手との出会いについて聞く事になるという話。
偶然によってころころと転がる人生。
風船のように風に飛ばされるのか、木のようにどっかと根をはるのか。
変わらずにいることが価値あることって決めつけるのではなくて、その時その時の変化に身体を預けられるように身も心も柔軟で軽くあったほうがいいなと思った。
習慣に縛り付けられた主人公が解放されるように。

花畑

不幸続きの主人公。
あまりに長く暗いトンネルにうんざりしていた主人公の視界が、ふっと色を意識する、重い荷物をぽっと手放す、そんな話。
これも「誕生日休暇」に似た、切り替え、解放というかんじ。

完璧なキス

主人公の男性が延々思い出のキスについて考えている話。
しかも吉祥寺のドトールで。
あんまり面白くなかったのだけれど、ほんと人って何考えているか外からはわからないよねというところだけわかりあえた。

海と凧

倦怠期のカップル。
主人公の女の子が高校生の頃に砂浜に埋めた凧を探しに行くことになる話。
これも「ジミ、ひまわり、夏のギャング」のように、情景がぱーっと浮かぶ。
「ジミ、ひまわり、夏のギャング」と「海と凧」の共通点は、音がなくただそこに季節が、風景が、色があって、モチーフが揺れているところ。
ある場所が持つ過去の記憶を覗き、今の風景を肌で感じる。
そして最後に主人公が持っていた黒い塊が昇華する。
この2つの話がいちばん好き。

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