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2008/11/04

太陽と毒ぐも / 角田光代

Taiyo太陽と毒ぐも

★★★
角田光代

書籍の詳細情報はこちら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
恋人たちの様々な問題を描いた、11の短編からなる作品。
さすが角田さんと言いたくなるリアルさ。

■サバイバル

お風呂にはいるのが嫌いなスマコと付き合う彼の話。
物語終盤、化粧をバッチリしてお洒落な服を着ている女性たちを痛烈に批判するスマコの痛々しさ。たしかに、中身が空っぽで外身ばかり気にして着飾っている人っているけれど、スマコの毒舌はきちんと出来ない自分を棚に上げた単なる妬みに聞こえる。
私も多分、若い頃、自分が嫌いな女性のタイプを彼氏の前で批判したことがあったと思う。そうしてしまうのは、若さと青さなんだろうな。
揺るぎない「自分」があったら、彼の前で痛烈に批判する必要なんてないんだもの。

■昨日、今日、明日

記念日フェチのクマコと付き合う彼の話。
記念日、記念日と、いちいち刻んで思い出を反芻しなければいけいないのは何でだろう。
互いが思いを共有していればいいけれど、記念日を相手に押し付けられるのは何かがおかしい。
でも、救いのある終わり方をする話。

■お買いもの

買い物依存症のリョウちゃんと同棲している彼女の話。
何故彼が無意味なものをどんどん買ってしまうのか、彼の抱える闇が何なのか、未だに彼女はわからないでいる。
理解しあえていない他人と共に暮らす事の怖さが垣間見える話。

■57577

嫌なことを、心の中で短歌調にまとめてしまう主人公の話。
何でも素直に思ったように話してしまう、恋人のナミちゃんのキャラがリアル。良くも悪くも子供のままで、考えなしに行動してしまうが故に周囲を傷つけてしまう子。
下記の核心をつく一言がいい。

泣きじゃくり懺悔するちいさな子どもは、まだ知らないのだ。何かを正直に言えば言うほど罪深くなっていく世界があることを。ゆるす役目を持った人が存在しない場所があることを。

恋人は両親ではないし、いつでも正直であればいいというものではなくて。子供はいつか大人にならないといけない。

■雨と爪

迷信を心底信じるハルっぴと付き合う彼の話。
迷信というのは何らかの教訓を含んでいるものだったりするけれど、妄信的に信じ込んで翻弄されるのは何かが違うと思う。

■100%

巨人が人生で一番大切といっても過言ではないような、野球好きな木幡敦士と付き合う彼女の話。色々な価値感が違うカップルの話なのだけれど、彼女の母親が言う一言に考えさせられる。

しょせん他人なんだもの、100パーセントぴったりの人なんているはずがないのよ。

■共有過去

万引き癖のあるカナエと付き合う彼の話。
10年の付き合いの間で、彼女を変えられなかった原因は自分にあるのか、という部分で考えさせられる。
たしかに、付き合う相手で人ってその大小はあるかもしれないけれど、変わるものだから。

■糧

お菓子をご飯代わりに食べる事が好きな仁絵と付き合う彼の話。
私も、彼と同じように食事に重点を置くタイプなので、食事をお菓子で済ませるということに嫌悪感を抱く気持ちはわかる。でもこの話で唸らされたのは、彼の視点と彼女の視点での受け取り方の違いの部分。付き合って行くか否かのカードを自分が持っていると思っていた彼、でも彼女の方だって日々そのカードを切るかどうか考えていたのだ。付き合っている相手に不満があって付き合いを考えている人は、読んでみるといいと思う。選ぶ権利は自分にばかりあるのではないと気付かされるのでは。

■二者択一

泥酔女が嫌いな上野くんと付き合って別れた、酒好きな彼女の話。
一つ前の「糧」の逆のバージョンという感じ。
私も酒好きなので、彼女にやや親近感を抱く。
男よりも酒なんじゃなくて、好きなお酒を飲むことを許さなかった上野くんとやっていけなくなったということなのに、周囲には「男より酒なんだ」って言われてしまう。これってきっと「男より仕事」バージョンとかも世の中にたくさんあるだろうな。

■旅路

旅先で旅行への価値感の違いからもめる吉男と依子の話。
何でも現地の人と同じにしていればいい旅になると妄信する吉男と、お金をかけてリッチで安心な旅がしたい依子。
お互いの旅への拘りの違いによるもめ方とか、これもまたすごくリアル。
結局は2人とも旅慣れていなくて、2人とも思いやりが足りないのだよね。
私ももし一緒に行く相手が「パック旅行で添乗員がついていなければ嫌だ」とか「いっぺんに沢山の国をまわりたい」なんて言って、ヨーロッパ三カ国周遊七泊八日の旅とか持ってこられたら喧嘩になってしまいそうだけれど・・・。
自由に自分の足で自分のペースでその国をじっくり見るのが好き、私は。

■未来

友人たちに駄目な男と言われるミネオと付き合う彼女の話。

私たち2人ともに欠如したたくさんのものごとのなかに、結婚観と人生観の欠如というのは歴然とあって、それはたとえば、大きな病のようなものだと私たちは思っている。

大好きで大嫌いな相手と暮らすこと。
同じ立ち位置で物事を見る楽観主義の2人、見えてこない未来。
でも私は何となく、適齢期に結婚をして子供を生んで、絵に描いたような生活のレールにのって日々過ごしている人たちよりも、この2人の方が親近感がわく。
私も似たようなものが欠如しているんだろうな。

■あとがきから

この作品は、誰かへの愛するという気持ちが、些細な濁ったものでいとも簡単に見えなくなってしまうことや、逆にまたその気持ちに再度気付かされる瞬間というものを、非常にうまく描いている。
下記のあとがきにあるコメントに全てが凝縮されている。

本当につまらないことで私たちは愛する人と諍いを起こし、馬鹿馬鹿しい性癖や習慣が、決定的な亀裂を生むこともある。だれかを強く愛することと、冷蔵庫を空っぽにするそのだれかに苛立つことは、決して矛盾しない。遥か上空で太陽が光り輝いていても、ときとして濁った色の悪い雲に遮られ私たちに届かないのと同じように。

他人と付き合っていくというのはそういうことだ。
100%合うようにつくられた人なんていないから、100%に向かって歩んでいけるかどうかはお互いの努力と思いやり次第なのだ。

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コメント

はじめまして。

この本、ものすご~く読みたくなりました。
読んで、痛い思いをしそうな予感がするけど・・・。

私の読書予定リストにいれておきます。

投稿: ラテモ | 2008/11/04 06:12

はじめまして。
読んでみたいって言っていただけると、書いてよかったなと思います。嬉しいです。

角田さんの作品は数多読んでいるのですが、笑いを織り交ぜつつも男女関係のいさかいのリアルさが際立つこの作品はおすすめのひとつです。
人ぞれぞれぴんとくる話は違うと思うのですが、必ずひとつは唸らされるものがあると思いますよ。

投稿: *yuka* | 2008/11/04 23:19

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