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2008/09/13

悪人 / 吉田修一

Akunin悪人
★★★
吉田修一

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吉田修一の最高傑作だという書評をいくつも目にしたこの作品。
ずっと気になっていて、先日やっと読了。

保険外交員の佳乃がはじめに殺される。
そこで、犯人は明かされない。
犯人は誰なのか?そして何故佳乃が殺されなければならなかったのか?そういった視点で読み進めると一種のミステリー小説なのだと思う。
でも、私はこの小説をミステリーというジャンルで括る事には違和感がある。
謎解きに重きを置くそれとは明らかに違い、この作品は人物描写が丹念でそこここに強烈な人間臭さが漂っているからだ。

この作品は、今まで読んで来た他の吉田修一作品とは明らかに毛色が違う。
それまでのものは、いい意味でどこかドライで登場人物を突き放している印象があったのだけれど、この作品は今まで切り込んでいなかった人物の内の内まで入り込んで、隅々まで余す事無く描き切っている感がある。

誰が「被害者」で誰が「加害者」なのか。
誰が「悪人」なのか。
殺人者が加害者で、殺された人が被害者だ、というような、ハリウッド映画で見るようなわかりやすい善悪はここにはない。
誰もが悪と善とを併せ持ち、昨日まで普通に暮らしていた人が突然誰かの命を断つという凶行に駆られてしまう可能性が示唆されている。
また、ある人にとって価値のない人間でも、別のある人、例えばその人の家族にとっては宝物であったりして、一人一人の中で認識されている「その人」の像が全く違うのだということも考えさせられる。

前半の、佳乃が殺されたあたりの殺伐とした空気とは一変して、後半は祐一と光代の純愛劇となる。
ラブシーンの描き方にやや安っぽさを感じつつも、人を愛する事、そして愛する事で起こる変化というのを再確認させられる。恋や愛は良くも悪くも強大なパワーがあり、それによって人はいくらでも変わっていけるのだ。

祐一は、2人とも被害者にはなれないと考えている。
一方が被害者なら、一方は加害者なのだと。
たしかに、私たち人間が誰かと関わる時、程度の差こそあれども、どうしても振り回す方と振り回される方とに別れてしまうものなのかもしれない。一見、被害者のほうがただ可哀想に見える。でも、祐一のように、自分が加害者になることで相手を救いたいと考えている人もいるのだ。
自分が被害者だと思う人は、もしかしたら自分が相手を加害者にさせてしまっているのかもしれないと、一寸考えてみるといいのかもしれない。

複雑に絡み合う人間模様。
悪人は誰か。
この人にとっての加害者は誰か?
被害者は誰か?
そんなことをじっくり考えつつ読み進めると、非常に面白い作品だと思う。

一寸した嘘。
小さな悪意。
そのどれもが、自分を守る為の弱さからでているということ。
結局は誰もが幸せになりたいのだから。

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コメント

さすがゆかさん!
文才あるなぁ~とつくづく感心してしまいました(*^_^*)

投稿: 紘子 | 2008/09/14 22:30

ありがとう〜。
うまく纏まっていたかな。
考えさせられる本だよね。

投稿: *yuka* | 2008/09/15 17:33

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