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2008/07/21

映画「潜水服は蝶の夢を見る」

Sensui01 「潜水服は蝶の夢を見る」
★★
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:マチュー・アマルリック, エマニュエル・セニエ, マリ=ジョゼ・クローズ, アンヌ・コンシニ, パトリック・シュネ

2007年度カンヌ映画祭監督賞受賞

映画の詳細情報はこちら
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早稲田松竹でやっと観る事ができたこの作品。
これは映画館で観なくてはと思いつつ、ずっと観そびれていたのでした・・・。

ファッション誌「ELLE」の編集長として、華やかな人生を送っていたジャン=ドミニク、43歳。
ある日突然脳梗塞で倒れたジャン=ドミニクは、ロ ックトイン・シンドロームになってしまい、左目の瞬き以外の自由を一切失ってしまう。
言語療法士アンリエットは、彼に瞬きでのコミュニケーションを提案する。
「E,S,A,R,I,N,T…」
使用頻度に基づいて並べられたアルファベットを読み上げ、瞬きで合図するという方法。
自分が使いたいアルファベットのところにきたら瞬きを一回、単語が完成したら瞬きを二回する。
初めはうまくいかず、ジャン=ドミニクも苛々としてしまうが、やがてスムーズに伝えられるようになっていく。

絶望の淵にいた彼は、自伝を書き留めてもらうことを思いつく・・・という20万回の瞬きで綴られた自伝を基にした映画。

映画はジャン=ドミニクの視点で始まる。
狭い視界の中で、医者たちが動き、ジャン=ドミニクに話しかけてくる。
しかし、ジャン=ドミニクがいくら答えても医者たちは反応をしない。
やがて彼は、自分が喋れなくなったことに気がつく。
また、動かない右目は縫い付けられることになり、その場面では瞼と睫毛を内側から見たアングルになるのでこちらまで視界が塞がれる恐怖を感じる。

動く事が全くできない彼の視点で映画が進むときくと、酷く窮屈で退屈な様子を想像してしまうけれど、この映画の凄いところは全くそんな風に感じないところ。

まず、色彩美がすごい。
壁の色とカーテンの色の組み合わせの絶妙さ、飾られた薔薇の色、どれをとっても色が完璧すぎて、冒頭からため息がでそうだった。
フランスらしさの詰まった、圧倒的な色彩美はずっと続く。
あれが観られるだけでも、もうかなり満足してしまう。

Sensui02 登場する女性たちは皆美人揃い。
身体は動かなくても美人を見てしっかりテンションがあがるジャン=ドミニクにはくすりとさせられる。
胸元とか見過ぎだし(笑

ジャン=ドミニクは、クロードという女性に、言葉を書き留めてもらい、執筆を開始する。
彼の文章は情景がぱあっと浮かんでくるような美しさ。
驚く事に、彼はクロードが病室を訪れる前に、その日書き留めてもらう文章を全て暗記していたのだという。
彼は非常に頭のいい人だったのだなとつくづく思う。

才能を持つ人程、身体の自由を失った時の苦痛は強いのではないだろうかと思ったのだけれど、彼は自らの身体を自由に動けない重たい潜水服に例え、例え身体は自由に動かなくても蝶のように自由に羽ばたく想像力で僕はどこにでも行けるのだと言う。

映画は、彼の視点で見る現実世界と、彼の空想や回想と、客観的に見た彼の姿とをうまく混ぜ合わせてつくられている。
空想や回想の中で彼は自由に動き、壮大で美しい自然をどこまでも追いかける事も出来る。

身体の自由を失い、心だけの存在になった彼は、それまで気付かなかった様々なことに気付いていく。

彼を見ていると、「自分」というのは一体どこまでが「自分」なんだろうと思う。
そして、自分の前に横たわる「世界」というのは、どこまでが本当の「世界」なんだろうという思いに駆られる。
彼が浸る自由な空想の世界と、彼が自由に動く事の出来ない現実の世界。
その境目はどんどん曖昧になり、実際境目なんて必要なんだろうかという気持ちになってくる。彼が感じていることこそ、現実なのではないか、と。

Sensui03 彼は、病気になる前は有名ファッション詩の編集長だったし、かなりもてていたのだと思う。
美しい奥さん(子供がいたけれど籍はいれていない事実婚)セリーヌと別れ、新しい彼女がいた。

彼が病でふせってからも献身的に面倒をみるセリーヌとは対照的に、恋人は彼がロ ックトイン・シンドロームである事実を受け入れられず会いにも来ない。
病室にかけてきた電話で「以前のあなたじゃなくちゃ嫌なの!」「あなたがいなくて寂しいの!」なんて、見事に自己中心的なことを叫んだりする。
そんなことを言われたらジャン=ドミニクがどれだけ辛いかなんていう想像力も無く、彼と会えなくなった自分が辛いという事実にしか目が向いていない何とも幼稚な恋人。
でも、ジャン=ドミニクはそんな彼女に「毎日君を待っている」と伝える。しかもそれを伝える役目は病室にいるセリーヌ。 セリーヌは伝え終わった後、たまらず電話を切ってしまう。
これは、ちょっと、酷いな・・・。
それに、彼の病状から逃げているだけの恋人なんて、繋いでおいても仕方なくないか?
馬鹿正直というか、なんというか・・・。

ロ ックトイン・シンドロームという彼の病気から、観ている方も塞ぎ込んでしまいたくなるような映画だったらどうしようという不安もあったけれど、実際は淡々と描写された美しい映画だった。
あの映像美と、彼の左目からの視点や彼の想像を使うという表現の仕方は、一見の価値ありだと思います。
創作意欲もすごくわく。

彼は自伝出版の二日後に亡くなってしまったそう。
20万回の瞬きで自伝を綴る事、そのことは本当に彼に与えられた使命だったのでしょうね。
亡くなってしまった後、彼は身も心も蝶のように軽くなれたのでしょうか。

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» 潜水服は蝶の夢を見る [象のロケット]
ジャン・ドイニク・ボビーはELLE編集長、42歳、子供3人の父親。 或る日倒れ、身体の自由を失った。 唯一動くのは左目の瞼。 そして20万回の瞬きで自伝を書き上げる。 蝶のように飛び立つ想像力と記憶で…。 ≪ぼくは生きている。 話せず、身体は動かないが、確実に生きている≫... [続きを読む]

受信: 2008/07/22 22:17

» 潜水服は蝶の夢を見る [毎日が映画記念日]
観ようかどうしようかなーと思っていたけど、 評判いいので観てきました。 [続きを読む]

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