映画「空中庭園」
「空中庭園」
★★★★★
監督:豊田利晃
原作:角田光代
出演:小泉今日子 、 板尾創路 、 鈴木杏 、 大楠道代
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以前、原作の書評を掲載した「空中庭園」
ストーリーはほぼ原作と同じ。
「何ごともつつみかくさず」をモットーにしている家庭、京橋家を舞台にした話。
以下内容にふれていきます。
主人公絵里子がつくるベランダのガーデニングは、原作でイメージしていたものよりもずっと豪華で大きい。ベランダガーデニングでここまで大規模にやっている人ってどれくらいいるのだろう。
カメラがひいてダンチ全体を映した時に、バビロンの空中庭園をよりイメージさせる。
空中庭園って?という方の為に簡単に説明すると、バビロンの空中庭園とは紀元前600年頃にバビロンにつくられたもので、庭園の各テラスに様々な植物が植えられていた。空中庭園といっても空を飛んでいるわけではなくて、遠くから見た時にあまりの大きさに空から吊っている様に見えたからだそう。
ダンチのベランダガーデニングをこれに例えているわけである。
ちなみに、居間の電笠にもバビロンの空中庭園を思わせるイラストが描いてあり、演出が細かい。
登場人物たちはほぼ原作通りのキャラクターなのだけど、祖母だけは違った。
原作よりもずっと色気があってかっこいいキャラクターに感じた。
それが絵里子との対比で、より双方が際立って見えるのでいいと思う。
主人公絵里子を演じた小泉今日子が凄い。
笑顔の下に潜む、ひりひりとした感情が透けて見えて怖い怖い。
あの美人なキョンキョンが、思い込みが激しく視野の狭いおばさんにしか見えなくて、これって演技力の賜物ですね。
素晴らしい。
ストーリーは部分部分アレンジされているのだけれど、それがどれも映画用として成功しているように思える。
小説そのままだったら地味で終わってしまっただろうと思える絶妙な箇所に、小説では使えない表現を絶妙な匙加減でいれているのだ。
ただ一カ所だけ・・・マナをホテルに連れ込んだ男がバビロンの空中庭園の入れ墨をしていて、「バビロンへようこそお姫様(だっけ?)」と言う件は過剰だと思う。
そこまでバビロンをアピールする必要はあったのだろうか?
電笠やダンチで十分暗示できているのに・・・。
あそこだけ非常に出来が悪い気がする。
この男のキャラクター自体いらないような気もするのだけれど、彼は「赤ん坊は血にまみれて泣きながら生まれて来る」という、後々重要になるセリフを言ってはいるわけで。
でもこのセリフは、別の人が言ってもよかったんじゃないだろうか・・・。
あと、この映画では、自分で事実の見方を決めてかかってしまったがために、大切なことを見落としているんじゃないか?というメッセージが伝えられる。
最後、絵里子が血塗れで泣く場面は、はじめ「な、なんで血塗れ」と思ったのだけど、よくよく考えてみれば真実に気付いた絵里子がもう一度生まれ直す=生まれ変わったように成長する ということの表現なのですね。
誕生日には家族3人から、ケーキと白い花と白いくまのぬいぐるみのプレゼント。
白=清いもの、赤ちゃん ということを表しているのでしょう。
つまり、生まれ変わった絵里子そのもの。
全体的に、とても丁寧なつくりの映画だと思う。丁寧すぎてわかりやすすぎるところがちょっと気にはなるけれど・・・。(バビロンの入れ墨とか、繰り返されるセリフとか、家族のプレゼントの色とか)
映像が美しく、ゆらりゆらりと空中を揺れる植物のハンギングバスケットを思わせるカメラワークもいい感じ。
結末では原作よりももっと絵里子がちゃんと救われたので一安心。
家族間に秘密があっても、結局は愛するのは家族なんだという映画。
ちょっと泣ける。
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