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2007/07/22

まぶた / 小川 洋子

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★★★★★
小川 洋子

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まばたきの一瞬に見え隠れするような、どこか不思議な8つの短編集。

飛行機で眠るのは難しい
「飛行機で眠るのは難しい。そう思いませんか、お嬢さん?」
飛行機で隣の席になった男に話しかけられるところからはじまる話。
「飛行機で気持ちよくなんか眠れない」という主人公に、彼は「その人固有の眠りの物語」があると言う。
彼は主人公に、何かに触れるとその品物もまた小さく見えてしまうという不思議な老女とのエピーソードを話してきかせる・・・。
夜の飛行機のしんとした情景と相俟って進む静かな老女の物語が胸を打つ話。
書き出しが秀逸。

私自身、そんなに眠くないけれど眠らなきゃっていう時はこつがある。
自分の頭の中で物語を創作したり、脳波を眠りの方向に持って行ったり。
人ぞれぞれ、そういうこつって持っているのだろうな。

中国野菜の育て方
野菜売りのお婆さんからもらった、中国野菜の種。
夜になると光るその不思議な植物と、どこに行ったかわからないお婆さん。
ぼんやり光る植物の美しさが深く印象に残る話。
お婆さんを訪ねて行ったパン工場裏でおじさんにもらった出来立てのジャムパンが何とも美味しそう。

まぶた
海辺の町に住む15歳の主人公は中年男Nと恋をして島にある彼の家へ通う。2人の様子をじっと見守るハムスターにはまぶたがない。病気でまぶたを切り取ってしまったというのだ。
その一方で、主人公のまぶたに執着するN。
ホテル・アイリス」の焼き直しともいえる話で、一寸物足りなかった。
ホテル・アイリスでは、翻訳家の甥は病気で舌を切り取ってしまっていた。言葉を司る舌と、眠りを司るまぶた。それぞれの欠損に込められた意味を考えてしまう。そして、双方とも本当に病気でなくなったものなのだろうかという疑問が残る。

お料理教室
主人公が訪ねた「キャセロール料理教室」
先生一人、生徒一人なのに、お料理の手順を何も教えてくれずに全て自分でやってしまう困った先生と、何も言い出せない主人公という居心地の悪さの描写がうまい。
ハウスクリーニングの業者によって清掃された配水管から次々と流れて来る生ゴミたちが気持ち悪い。
やっぱり小川さんの描く「食卓」って、食欲が失せるようなものが多いと思う。

匂いの収集
この世のあらゆる匂いを収集することが好きな彼女をもった主人公の話。薬指の標本的な舞台。
唯一、いまいちだなぁと思った短編。
この結末なら、「匂いの収集家」である必要はなかったのでは?と思う。

バックストローク
水泳の才能をもった弟と、それを応援する為だけに生きる母、それを見守る主人公の話。
母親が庭にプールをつくった後、弟の身体に異変が起こる。左腕が上がったまま動かなくなってしまったのだ。
それをきっかけに精神的におかしくなっていく母、アルコール浸りになる父、責任を感じる弟・・・家族がバラバラになってしまう。庭のプールから水がなくなった時、それが石の棺に変わってしまうことを皆何となくわかっている。
実際、何らかの才能があって、それに親なり誰かなりが寄りかかってつぶされそうになっている人って結構いるのでしょうね。その人の為にってつくられた何かは、その人をそこに縛り付けるためのものでしかなかったりして。恐ろしい。

詩人の卵巣
睡眠薬を断つ為の一人旅の話。
雨宿りついでに寄った詩人の記念館。
そこで手に入れたのは、彼女のまぶたの向こうに広がる眠りの物語だったという話。
一人で、旅先で目的もなくふらふら〜な感じが良い。
人はそれぞれ眠りの召使いを持っているという話で、「飛行機で眠るのは難しい」とリンクする。

リンデンバウム通りの双子
主人公が仕事の関係で知り合った双子の老人ハインツとカール。
2人が辿って来た歴史と老い、兄弟愛の中に主人公は大切なものを見つけ、娘の元へ急ぐ。
雨の日に澄んだ音色でゆっくりと鳴り止んで行くオルゴールのような話。

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