カツラ美容室別室 / 山崎ナオコーラ
「カツラ美容室別室」
山崎ナオコーラ
文藝2007秋号掲載
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高円寺にあるアパートで一人暮らしをする淳之介。
風来坊の梅田さんに連れられて行ったのは「桂美容室別室」
店長、桂孝蔵はカツラをかぶっている。
そこで働くエリと仲良くなった淳之介は・・・という話。
以下内容にふれていきます。
以前、「浮き世でランチ」の書評でも言っていたように、私は山崎ナオコーラさんの作品って結構好き。山崎さんの小説は、ところどころ「うまい」と思わせる表現があるからだ。
段ボールの断面に出来ている穴の、ひとつひとつに寂しさが詰まっているのが見える。夜中に、細長い虫のような寂しさが、その穴からニョロリと出てきそうだ。
上記は、引っ越ししたばかりの淳之介の気持ちをうまく表現していると思う。
オレが仕事をしていても、部屋でだらだらしていても、この地球のどこかにエリという人が存在しているということが、変。髪を切っているのか、本を読んでいるのか、友達と一緒か、眠っているのか。わからない。でも確実に何かをしている。どこかに、いる。触れないが、温かいはず。人間だから、一秒も休まず、生体として活動を続けている。変だ。
相手が不在でも、生きてどこかで何かをしているという感覚って気にしてみると不思議なもので。
そういう感覚に気付かされて面白い。
疲れる女といるよりも、アパートで牛乳を温める方がいい。
エリの愚痴をきかされてうんざりしている淳之介の気持ち。そうなんだよね、疲れる人と一緒にいるくらいなら一人で好きな飲み物のんでいるほうがよっぽどほっとするよね・・・と思う。
その他にも、淳之介がエリに対して持っている淡い好意が、エリが他の男といるところを見た途端に変質する様子とか、兄だと知って嫉妬が氷解するところとか、カツラさんに対して失礼なことを言っちゃったからとメールで謝った後に謝ったこと自体が嫌になってしまったりとか、エリに対する気持ちの変化だとか・・・ああ、なんかわかるわかるという場面がいくつもある。
結末はちょっと納得がいかなかったけれど。
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