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2007/06/29

ホテル・アイリス/小川 洋子

30429606_1「ホテル・アイリス 」
★★★★☆
小川 洋子

書籍の詳細情報はこちら
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最近小川洋子づいている。
合間に違う作品も読んでいるのだけれど、率が高い。
そういえば書評を書けていないものが相変わらず多い。。。

海のそばにある寂れたホテル「ホテル・アイリス」
美しい少女マリは、うるさい母親が経営するホテル・アイリスで働く。
ある日、アイリスに宿泊した老人が商売女ともめごとを起こし、大騒ぎになってしまう。
その老人は罵詈雑言をわめく商売女にこう言った。
「黙れ、売女」
マリはその一言で彼にひかれてしまう。
偶然町で彼を見かけた時にマリは後をつけ、彼と会話をする。
彼は、町から遊覧船に乗ると行けるF島に住んでいた。
ロシア語の翻訳家をしているという彼。
今翻訳している小説のマリーという名の主人公とマリが重なって見えるのだという。
やがて翻訳家から手紙がきて、2人は再会する。
2人はF島で変わった形の愛を育んでいく・・・といった話。
以下内容にふれていきます。

小川洋子の描く「母親」は、大抵意地悪でわがままなど問題のある人間だ。
このホテル・アイリスにでてくる母親も例外でなく、マリに叱責するばかりで彼女の話を聞こうともしない。娘が言う事をきかなければ罰を与える。
その一方で娘の美しさを喜び、毎朝必ず娘の髪を結うという偏った愛情を見せる。
そんな母親の元で、萎縮しながら生活をするマリ。
また、母親とともにホテル・アイリスで働くおばさんは、マリの持ち物を盗む癖がある。彼女は大事な手紙をおちおち自分の部屋に置いておくことすらできない。マリはアイリスに安らげる場所が無い。

そんなマリにとって、翻訳家は憂鬱なアイリスから解放してくれる騎士のようなものだったのかもしれない。
鏡の国のアリスにおける、アリスと白騎士のイメージが浮かぶ。
・・・でも、紳士な顔は町で会っている時だけで、彼はF島で本当の姿を見せる。

「服を脱ぎなさい」

彼の命令が始まり、マリは全裸にされ床に押し付けられる。
彼はマリを言葉で、身体で、全て支配しようとする。
マリは、肉屋の倉庫にぶら下げられたにわとりのような自分の姿を確認しつつ、彼に逆らう事はできない。
マリと翻訳家は、SMともいえる形で愛を育んでいく。

マリが、翻訳家に自分を醜く縛られ、人間とは思えない扱いを受ける事を望んでいるのは何故か。
アイリスで息が詰まりそうになっている自分の輪郭を確認する為なのかもしれないし、退屈な日常に対して非日常は極端なものを望んだのかもしれないし、自分の見た目ばかりを愛する母親への復讐なのかもしれない。

翻訳家がマリに暴力的なことをするのは何故か。
大抵、パートナーを暴力行為で支配しようとする男というのは酷いコンプレックス持ちだったりする。
だからこそ、相手を完全に自分の支配下に置かないと安心できないのだ。
F島という、非日常のお城では王様でいられる翻訳家。
でも、日常である町にでればレストランで予約を断られてしまったり、町の人間に陰口をたたかれるような惨めな老人なのだ。

翻訳家には甥がいる。
舌に腫瘍ができたせいで舌を切除した過去があり、口をきけない甥は、ペンダントにいれた紙に文字を書いて会話をする。
マリとは違い、丁寧に優しく甥を愛する翻訳家。

最終的に翻訳家は亡くなってしまう。
でも、マリが「マリーという名の主人公が出てくる小説を翻訳したノートが欲しい」と警察に頼んでも、そんなノートは見つからなかった。そして、親しかった伯父が亡くなったというのに、最後まで甥は姿を見せない。
そこで、私は思った。
もしかして、翻訳家にまつわる何もかもが嘘だったのではないか?と。
マリーという名の主人公が出てくる小説なんて存在しなくて、むしろ翻訳家は翻訳家なんかではなくてただロシア語が好きな老人なだけかもしれない。自分は翻訳家であると嘘をついていたのかもしれない。
そして、甥はそもそも甥なんかではなく翻訳家の恋人のようなものなのかもしれない。
甥の舌を切ったのは翻訳家かもしれない。
マリの父親を殺したのは、暴行の前科がある翻訳家なのかもしれない。
翻訳家の妻はやはり翻訳家に殺されたのかもしれない。
・・・そんな風に、最後にでてきた一つの綻びを前に、今まで語られてきたことたちの真偽について考えをめぐらせてしまう。
つまり、読み終わってもさらに美味しい物語。

小川 洋子はやはり描写が美しく、独自の世界を確立させる技量がある。
でも、今回の老人が少女を言葉と暴力で支配することは私は好きとは言い難く、そして男に支配されることを喜ぶマリの気持ちもわかることができなかったので★を1つ減らした。
鞭で打たれて、恍惚の悲鳴・・・私にもわかる日が来るのだろうか・・・。

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