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2007/06/03

完璧な病室/小川 洋子

412p6abq48l_aa240_「完璧な病室」
★★★☆☆
小川 洋子

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表題作「完璧な病室」の他、海燕新人文学賞受賞のデビュー作「揚羽蝶が壊れる時」、「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」を収録。

◆完璧な病室
21歳の若さで不治の病で入院する事になった、余命わずかの弟。
主人公は、弟の入院をきっかけに急に弟への強い愛情を感じはじめる・・・といった話。

この作品は、病室が舞台になっている。
清潔で生活感が皆無の病室を好む主人公は、弟のお見舞いに病室に来ていることが何よりも幸せである。
病のせいでぶどうしか受け付けなくなった弟がぶどうを食べる様は美しい。透き通った指にうっすらと紫の果汁が染みている様子がはっきりとイメージできる。
保健室のベッドってなんでこんなに心地いいのだろうという感覚に似ている。

主人公は、病んでしまって家を正常に保てなくなった母親のせいで、生活感というものを嫌悪し「生活ってうすのろで幼稚で汚らわしい」と思っている。
だから、弟が食べるぶどうがまるで仙人が食べる霞のように神聖なのに対して、他の食べ物の不味そうな事。例えば、夫が食べるビーフシチューを主人公はチョコレート嚢胞の手術の時に見た血液が腐敗した色にそっくりだと思っていたりする。また、主人公の母親が庭に放置したケーキには、大量の蟻がたかっている。
妊娠カレンダー」もそうなのだけれど、人間の「食」の醜さは小川 洋子にとって普遍的なテーマの一種なのだろうか。

変性や腐敗を含んだ実生活に対して、弟との思い出は無機物のように清らかでガラス細工のようにどこまでも透明でひんやりと美しい。

「完璧な病室」の主人公の亡くなった母親と、「ダイビングプール」の母親の描写は似ている。唇を虫に例え、喋る事に対する嫌悪感を強く表している。著者にとっての母親像がそうなのだろうか。

◆揚羽蝶が壊れる時
痴呆症の祖母を施設に預けた主人公が、ずっとそれを後悔し、おかしいのは祖母ではなく自分なのではないかと悩む話。自分と祖母、現実と非現実、内部と外部といったものの対比。例えば、白い画用紙に黒い丸があったとして、それは黒い丸が描かれた絵なのか白くて黒い丸い穴のあいた形が描かれた絵なのか?というようなことを悩むような話。(作中にはこんな例えはないです、イメージです)
デビュー作だけあって、全体的にかたい印象。
主人公の彼が詩を書き、その詩の内容を主人公に語ったりするのだけれど、その部分が冗長かなと思う。揚羽蝶というモチーフをもっとうまく使えたらよかったのにと思う。タイトルの美しさに対して内容にちょっと不満が残る。

◆冷めない紅茶
主人公はサトウという恋人と同棲しているのだけれど、どこか嫌悪している。
同級生のお通夜の帰り道で再会したK君とその奥さんの清らかさにひかれ、何度も訪問する話。
このK君の家というのが時間を感じさせない家で、とても不思議な夫婦である。
実は母校の図書館で起こった火事でK君とその奥さんは亡くなっていたのではないかという気もするけれど、確証はない。
K君がいれてくれたいつまでも冷めない紅茶が象徴するように、時間軸の歪んだ感覚がなんとも不思議な話。
注意して読んでみると、最後にK君の家から帰る時の風景と、最初に同級生のお通夜から帰る時の風景が・・・。
ああ、だから洋服の色を気にしたのか。なるほどと思う。

◆ダイヴィング・プール
舞台となっている教会と孤児を預かるひかり園は著者の祖父が営む教会とその隣にあった生家がモデルとなっているらしい。孤児を預かる施設をやっていたかどうかは定かではないけれど。

そういえばこの話の舞台と「完璧な病室」のS医師の家庭環境は同じである。
両親が孤児院を営み、孤児たちを平等に愛する為に自分の子供も孤児たちと同じように育てる・・・という。
その結果、いずれどこかの家に引き取られて行く孤児たちとは違い、永遠に孤児のままの主人公は愛情不足になってしまっている。その為、レイ子にわざと聞かれたくないだろうと思う質問をしたり、幼いリエに虐待を加えたりする。この底意地の悪さって、山本文緒作品に通ずるところがある気がする。愛情に飢えた末の身勝手さと残忍さが巧みに描写されている。
この作品も極端なもの二つが対照的に存在している。
主人公が嫌悪するひかり園に対して、主人公が純を見る為に通うプール。


「愛情不足」「嫌悪する日常」「癒される完璧な場所と人」これら3つがすべて要素として存在する作品集だなと思った。でも結局、完璧な物は永遠ではない。
「完璧な病室」「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」の3作は芥川賞候補となったらしい。
「完璧な病室」「冷めない紅茶」あたりは、昨今の芥川賞受賞作よりもレベルが高いのでは?と思ったりする。

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コメント

小川さんを連続して読んでおられますね。
この方の作品って、ひとつ読むと次々読みたくなりませんか?
僕も一時期立て続けに読みました。
この作品も読みましたが、まだ結構読んでいないものもあるので、全部読みたいと思ってます。

投稿: ふくちゃん | 2007/06/05 00:21

そうですね。
たしかに、読み出すと他の作品も気になってしまうタイプの作家さんですね。込められた意味を読み解くのも面白いですよね。

投稿: *yuka* | 2007/06/05 10:00

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