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2007/06/02

妊娠カレンダー/小川 洋子

18950714「妊娠カレンダー」
★★★★☆
小川 洋子
第104回芥川賞受賞作

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表題の芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」の他に、「ドミトリイ」「夕暮れの給食室とプール」を収録。
以下内容にふれていきます。

◆妊娠カレンダー
日付と妊娠の周期で区切って進んで行く。
例えば
十二月三十日(火) 六週+一日
といったかんじ。
内容を知らずにタイトルを見たら、多くの人が「妊娠した人の平和な話」だと思うだろう。
でも本作は、どこかに異物がつかえたような違和感と心地の悪さと妊娠の醜い面、そして姉妹の隠れた憎悪がちらちらと見えるような作品である。だいたい、作中に「シャム双生児」という言葉が二回もでてくる妊娠話が平和なわけがないのだ。

主人公は姉夫婦と同居している。
食事をつくるのは主人公の役目だけれど、姉はいつも偉そうに食事の文句を言う。

この話に出て来る食べ物は、どれも不味そうに描写される。
キイウイの種子は小さな虫の巣。
グラタンのホワイトソースは消化液で、マカロニは消化管。
口の中であの空洞がぷつ、ぷつ、って切れる時、わたしは今、消化管を食べているんだなぁという気持ちになるの。
なんて言われると、口の中にマカロニという名の消化管をいれて噛み切る様子を想像しちゃって、食欲が失せる。
美味しく健康的な食事をしない彼女らはきっと、本当に心を開いている家族ではないという意味なのだと思う。

また、主人公はバイトで出向いたスーパーでは「食べ物を捜す為だけにこれだけ多くの人が集まる事の不気味さ」を考えている。その一方、つわりが終わった姉の異常な食欲は主人公の目に醜くうつる。
人間にある「食欲」という欲求を客観的に見た時の気味の悪さは、どこかシュバンクマイエルを思い起こさせた。

主人公は、表向きではつわりの姉の為に姉でも食べられる物がないかと考えたり、食料の匂いがでないように努力して自分の夕食は庭でとるなど献身的な妹である。
しかし、スーパーでもらったアメリカ産のグレープフルーツでジャムをつくるあたりから主人公に変化が訪れる。
防カビ剤PWHが塗布されたグレープフルーツは、染色体そのものを破壊する毒物である。
それを知っていながら、主人公は毒物たっぷりのジャムにがっつく姉を止めない。
そればかりか、姉の横で
「PWHは胎児の染色体も破壊するのかしら」
などと涼しく考えている。

それ以来、主人公は毎日アメリカ産のグレープフルーツで大量のジャムをつくり、姉は鍋をかかえてまるでカレーライスでも食べるかのようにジャムを平らげる・・・ということが繰り返される。
主人公は、染色体を破壊する様子を思い描く。

蛍光灯の灯りを受け透明に光っているジャムの滑らかさが、化学薬品の冷たいびんを連想させた。無色のガラスびんの中で、胎児の染色体を破壊する薬品が揺らめいていた。

まるで動物実験。実際、姉の中の胎児は主人公にとっては人間なんかではなく、姉を醜く変えてしまったただの得体の知れない動物のようなものだったのかもしれない。いや、動物以前に染色体の形のイメージしかない記号のような物だったのかも。

静かで冷たい空気の中にグレープフルーツジャムの甘酸っぱい味と香りが漂っている印象が強く残る作品。


◆ドミトリイ
古い学生寮を舞台にした作品。
両手と片脚がない先生と、入寮したいとこ、遠い昔にその寮にいた主人公の話。
過去に 突然いなくなってしまった寮生がいたり、何故か主人公が遊びに行く度にいとこがいなかったり、天井に謎の染みが広がっていたりと、ミステリーっぽい。
でも、染みの正体が私には途中でよめてしまったので残念。


◆夕暮れの給食室とプール
雨の中訪ねて来た不思議な親子と主人公の話。
給食室で機械的につくられていく食事の描写が面白い。
千匹の海老の海老フライとか思い浮かべた事がなかった。
夕暮れの給食室を見ると、雨のプールを思い出すという男の子供の頃の思い出話が良い。
子供の頃の憂鬱なことや、一寸したきっかけで何かが嫌になったりする様子が巧みに語られている。

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