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2007/05/19

アカルイミライ

「アカルイミライ」
2007年
監督: 黒沢清
出演:オダギリジョー 浅野忠信 藤竜也
公式HP
★★★★★
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Ams_1眠ると未来の夢を見るという仁村雄二(オダギリジョー)は、自分をうまくコントロールできずにいつも何かに苛ついていた。そんな雄二は同僚の有田守(浅野忠信)を慕い、守は雄二の世話をやく。
うまくコントロールできない雄二の為に、守は「待て」と「行け」のサインを決める。
ある日守は飼っていたアカクラゲを雄二に渡して、突然姿を消す。
雄二は守の父、真一郎(藤竜也)と出会い、いつしか彼のもとで働き始める。
世代も考え方も違う二人だったが次第に心を通わせ合っていく・・・といった話。

以下内容にふれていきます。

工場の社長に「娘の机を運んでくれ」と私用を頼まれた雄二と守。
雄二は、不躾な頼みに苛つきながらも守と2人で机を部屋まで運ぶ。
その後、社長夫妻と一緒に食事をとることになり、夫人が気を使って話しかけるも何とも居心地の悪そうな雄二と守。夫人の話をうまくそらすあたり、ちょっと笑える。
そんな2人の気持ちとは裏腹に、社長は2人を社員として雇用したいと言い出す。
社長は2人と打ち解ける為に強引に雄二からCDを借りたり、手土産の寿司を持って守の家に訪れたりする。
この、社長と2人のやりとりが見事である。音楽には興味も無いのにCDを貸してもらったり、家を訪問したりすることで親密になれると勘違いしているのである。2人にはその気は全くないのに・・・。実際、こういう人っていると思うのだ。この映画はこんな風に、一寸した部分にリアリティがある。

老齢ながらも一生懸命2人に好かれようとして共通の話題を探す社長。社長の、プライベートに土足で踏み込んで来る行為に苛々を募らせる雄二。雄二をなだめる守。
社長の気持ちもわかるけど、初めて訪ねた守の家でスポーツ中継を勝手に見出して熱中するあたり、やっぱりこの人って図々しくて他人に嫌われるタイプなんだよなぁと思わせる。

猛毒を持つアカクラゲの水槽に社長が手をいれた時、注意をしようとした雄二を守は制してしまう。
普段温厚で協調性のある守が、実は雄二よりも怖い人間かもしれないと思わせる場面でぞっとする。

Brightfuture1守はやがて工場をクビになり、アカクラゲを雄二に託した後、行方不明になってしまう。
苛々が最高潮に達した雄二は、社長を殺しに行く。
だが、社長夫妻は既に殺されていた。
後に、それが守の仕業だとわかる。

雄二が刑務所に面会に行くと、守はクラゲの話ばかりした。
水温は、餌は、水質は・・・・・。
雄二はアカクラゲに対する苛立がつのり、水槽を倒したはずみでアカクラゲは床下に逃げてしまう。

やがて守は雄二に「行け」というメッセージを残したまま、自殺してしまう。
迷い無く常に冷静な守は死に際さえも潔かったのだ。
守は亡くなった後も存在感が強く、彼方から雄二を引っ張る感じさえした。

アカクラゲは、この映画のキーである。
守が「お前と気が合うと思うよ」と言って雄二に託したアカクラゲ。
ふわふわと水の中を漂い、手を出して来るものには猛毒で応戦するアカクラゲ。
目的無く漂い、不安を抱えながら生き、時にはキレてしまう雄二(=現代の若者)そのものである。
社長が好奇心から無遠慮に水槽に手を突っ込む様も、それを見事に表している。
だからこそ、結局社長はクラゲに刺される代わりに守に殺されてしまうのだけど。
クラゲが自己防衛の為に敵を攻撃するように、雄二たち若者がキレて攻撃的になるのも、弱い自分の為の防衛なのである。

雄二はアカクラゲに執着する。
守の忘れ形見であったせいもあるだろうし、真水の中でも生きていたその強さに自分の理想を重ねてしまったせいもあるかもしれない。
大切な何かを亡くした時、漠然とした不安に襲われている時、人が「依存」「執着」によって回避しようとするところを見事に表現できている。
この時の雄二の姿はどこまでも痛々しく、また、共感できる。

一方、守の父真一郎もちょっと切ない親父である。
守の弟を久々に呼び出し(どうやら離婚した元妻に引き取られているらしい)、守のことなどを話そうとしたら全く相手にしてもらえない。そればかりか、金の無心をされる始末。
でもきっと、こんな息子に育ってしまった背景には、愛情不足があるのだろうなぁ。
自殺してしまった息子と、金の無心しかしない息子。
この罪滅ぼしもあってか、真一郎は行くあてのない雄二を暖かく迎え、やがては実の息子のような愛情を持っていく。
真一郎は後に養子縁組の書類を役所に取りに行くのだけど、結局雄二にはこの話を言い出せないところに込められた思いにぐっとくる。

ラストシーンで、アカクラゲは大量繁殖し、川を流れて行く。
幻想的で美しい場面。
海を目指して泳いで行く生命の塊、クラゲたち。
ただ水槽の中を漂っていた何を考えているかわからないクラゲが、真水の中を懸命に泳ぎ、海という目的を目指す。
この場面では憂鬱な気持ちもすっかり浄化されてしまう。
「行け」のサインで雄二が目指すべきだった場所。
それはきっとアカルイミライ。
青臭く痛々しい若者たちへのメッセージ。

観終わった後も、その余韻が残り続ける素晴らしい映画。

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『アカルイミライ』 監督:黒沢清  出演:オダギリジョー 浅野忠信 藤竜也 分かり合えないことは絶望なのか。 僕らは何かと地続きに存在している。そして地続きな者にとっての未来とは過去から続いてきたものの延長にある。だからこそ「理解」が必要だ。「理解」とは繋がっていくことだから。 では繋がっていない場所に、未来はないのか。 いや、そうじゃないかもしれない。 まず「何からも地続きじゃない人間」そのものをここまで鮮明に映画に焼き付けた作品は他にないんじゃないだろか。これまで映画が表現してきた若者の姿... [続きを読む]

受信: 2007/05/19 04:51

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