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2007/05/18

舞い落ちる村

「舞い落ちる村」

谷崎 由依
第104回文學界新人賞受賞作
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遥か遠く、駅名すらない駅のもっと先にある、暦が曖昧で奇妙な村で育った主人公。
この村では、子を持つと姉になる。
次々と妹たちが姉に変わって行く。
子を持たない主人公は村を離れ、街の大学に通い始める。
そこで気の合う友人「朔」に出会う・・・といった話。

選考委員の川上氏が「私の文章に似ている」と言うように、たしかに言い回しや登場人物などが川上弘美風の小説であるが、丁寧に描写しているところには好感が持てる。

村の描写が美しい。
水の緩む季節に咲く青い彼岸花。
秋ぐちから冬にかけて村を鮮やかに染める極彩色の布たち。
村の人たちにとって口に出す言葉は戯れで、染め上げて織る布こそが言葉である。

言葉を巧みに操って議論もお手の物の朔に対し、言葉をうまく発せられない主人公。
主人公は朔に会えない夏休みの間に内に籠り、摂食障害になってしまう。
村の描写が幻想的なだけに、主人公の行き着いた病が摂食障害というのがひどく短絡的な選択に感じられてしまう。

あと気になるのは、主人公が慕う「朔」という女性の魅力が乏しいこと。
私はいまいち「朔」に関するイメージが膨らまなかった。

主人公が村に帰る場面になると、また美しい描写が始まる。
繊細なレース編みのような耳鳴り。
レースの耳鳴りはほどけて言葉になり、耳から零れ、白ウサギになって出て行く。

全体的に、村が心ひかれる不思議で美しい場所なのに対し、街の描写にはこれといった特徴も存在感もなく退屈である。狙ってそうしたのかもしれないけれど、せめて朔には魅力が欲しかった。
朔に魅力がないので、主人公と朔の別れが心を動かさない。

主人公は街で病むと故郷に帰り、また街へ戻るという生活を繰り返す。
街が言語を操る左脳であるなら、故郷は感覚を司る右脳といったところか。
行き来を繰り返し疲弊した末に、故郷に落ち着くといった結末は普通だけれど、描写の丁寧さと美しい世界観がよかった。

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コメント

そうでした! 村の、青い彼岸花をはじめとする、あからさまにずれている言葉、そこに触れようとしながら触れ損ねました。
川上弘美は自分のことに牽きつけて考える傾向があるように思えます。ちょっと独りよがり、自己中の気が・・・。

投稿: Lydwine | 2007/05/18 14:39

青い彼岸花はイメージがすごくわいて、印象的だったんですよね。
川上弘美さんの小説は好きなんですけど、今回の選評で「大人げないなぁ」と思ってしまいました・・・。他の選考委員が「これは川上弘美の真似だからだめだ」って言うならわかるんですけどね(笑

投稿: *yuka* | 2007/05/18 17:35

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