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2007/04/04

イノセントワールド

19934004「イノセントワールド 」

桜井 亜美

書籍の詳細情報はこちら
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愛のない乾いた家庭で育った主人公アミは、友人に斡旋される「テレファックス」という売春をし、その一方で親から見放された「無垢」な知的障害の兄と近親相姦関係を結ぶ。
離れたところに暮らす兄と会う為に売春で金を稼ぐ彼女は、やがて兄の子を妊娠してしまう・・・という話。

桜井 亜美さんの作品は一度読んでみようと思いつつそのままだったのだけど、初めて手にしたのはとりあえずデビュー作であるこれ。
あらすじだけ読むと、非常にどろどろした濃い小説に思えるけれど、実際はそんなことはない。

アミは売春している時には、気持ちだけ空間に放出して客観的に自分を眺めている。
アミがレイプされる場面には、痛みや嫌悪感が漂ってこない。
どこか遠くの世界で主人公とは関係なしに行われていることのように感じてしまう。
世界ときちんと向き合っていないアミにとってはどれも本当の色を持っていないからだ。
また、親にきちんと愛された事がないアミが唯一心を許せて愛しく思う兄と関係を結ぶ時は、その気持ちをどう伝えればいいのかわからない幼さからこの行為に及んでいると思えるし、知的障害の兄も行為の意味はきちんとわかっていない。
結果、生々しい性描写のどれもがいやらしく感じない。

ただ、この小説を読む時に気になるのは過剰比喩。
ちょっとした事を無理矢理文学的表現にしようとして比喩的言葉を詰め込んで滑っている感が否めない。
例えばつまらない奴らと遊ぶことで片思いの辛さから逃げている友人のことをこう言う。

時々、彼女が、死を前にして神父に罪深き人生を告白するモスクワの娼婦みたいな目をする時、あたしは少しだけせつなくなる。

「モスクワの娼婦」と言われて、すぐにイメージできる人がどれだけいるんだか・・・。
それに、片思いから逃げている後ろめたさを「死を前にして神父に罪深き人生を告白する娼婦」とするのは大袈裟である。
女子高生がちょっとかっこつけて過剰に表現しているという風にしたいのであれば、たとえば「この間観た映画にでてきた〜〜」とか何かリアルに思わせる繋ぎがないと。

また、渋谷という街のことを彼女はこうたとえる。

この街は、人々の秘められた慰撫への期待が作った氷の宮殿だ。
月を切り裂く無数の傷痕から流れ落ちた、濃密な銀の血溜まりに、痛々しいほど蒼白く浮かび上がる。光を受ければどんな美しい虹色にでも輝くが、それ自身はがらんどうの冷たい抜け殻にすぎない。

すごく美しく冷たいっぽい描写だけど、なんか渋谷のイメージとどう頑張っても結びつきません・・・。

私はこの小説で映像的に想像が膨らんで印象が残った場面がひとつもない。

あとは・・・普段本をあまり読まない層に読ませたかったからか字が大きい。

本作はさも実体験を書いたかのようなあとがきで締めくくられている。
桜井亜美は覆面作家であり、経歴等は一切公表していない。
でも、デビュー直後の朝日新聞のインタビューで桜井亜美がフリージャーナリスト速水由紀子のペンネームで、宮台真司氏とのユニット的名義でもあることを述べているらしい。
たしかにこの小説は、現役女子高生が実体験を書いたにしては小説としての体裁を整えようとしすぎているものね。実体験と言いたいのなら、内田春菊のファザーファッカーくらいきちんとリアルであって欲しいものです。

とりあえず次は「虹の女神」でも読んでみようかな。

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コメント

休養期間に入られたからでしょうか、すごい勢いで読書しておられますね。

じつは私、恥ずかしながら一時期桜井亜美にはまり、10数冊、続けざまに読みました。入り口はやはり「イノセント・ワールド」でした。読んだことはないのですが、きっとハーレクイン・ロマンスにはまるのは、こんな感じではないか、などと自嘲しながらも、サクサク読んでしまいました。
もちろん、どう見ても現役高校生の文章というよりも、計算ずくにそれらしく書かれた小説で、じつにあざといですよね。そのあざとさにはまってみると、それなりに読めてしまえるからなおさら怖い。むしろ「女子高校生」に憧れてしまうおじさん世代こそ、喜んで読むのかもしれないとまで、おじさん世代の私は感じていました。

投稿: Lydwine | 2007/04/06 03:37

こんにちは。
たしかに一日一冊ペースか!?ってくらい読んでいますね(笑
既に読んでいても書評にしていない本がたくさんあるので、そのへんもちょこちょこ追加しようかなって思っています。
桜井亜美は確かに個性があるので、はまってしまう気持ちもわかります。
村上龍の小説「ラブ&ポップ—トパーズ〈2〉」も、同じ系統ですかね?大学生の頃、読んだ友達が「女子高生がリアルじゃない」って言っていたんですよね。でも、多分当時売れていましたよね。
私は大学生の頃、映画で「ラブ&ポップ」を観たのですが(まだ無名だった仲間由紀恵がかわいかった)、そのパンフレットに監督が「セーラー服で撮影しよう」と言ったのを出演する少女たちがブレザーに替えさせたというエピソードがあって、世代ごとのフィルターによって「今時の女子高生」のイメージも若干違っているものなのかもなぁと思いました。だからこそ、大人が書く女子高生の小説は、女子高生による女子高生の小説よりも巧みに大人の心をつかむのでしょうね〜。

投稿: *yuka* | 2007/04/06 11:21

私は観ていませんが、「イノセント・ワールド」も映画になっていますね。村上龍も「トパーズ」では自由間接話法を使いこなしてみせるなど、驚きがありましたが、いざ映画となると、「さよならMy Friend」(でしたっけ?)以来、観る機になれなくて・・・。まして女子高生ものでは、小説も読みませんでした。女子高生=セーラー服というあたり、いかにもマッチョ思考のおじさん村上龍らしいですね。

投稿: Lydwine | 2007/04/06 19:24

私も「イノセント・ワールド」の映画は観ていないです。竹内結子さん主演ですよね。
村上龍の「トパーズ」は私すごく苦手で・・・、映画の方も観ていないです。ラブ&ポップは友人に誘われたので観たんですけどね。セーラー服はおそらく庵野秀明監督の趣味です(笑

投稿: *yuka* | 2007/04/08 23:20

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