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2006/12/11

映画『パプリカ』を観る

パプリカ
年度: 2006
今敏監督、筒井康隆原作
461f以前のブログにも書いた、映画「パプリカ」
テアトル新宿で観たのだけれど、なかなかの大盛況。上映の40〜50分前くらいについて、ちょうど整理券の真ん中くらい。上映開始直前は、チケットを買う為の列が長く連なっていた。

「パプリカ」とは、白衣を着た美しくて知的なセラピスト千葉敦子のもうひとつの姿。
彼女は、赤毛の明朗活発でかわいい女性「夢探偵パプリカ」となって人の夢にはいりこんで治療を行う。
装着するだけで、互いの夢を共有することができる「DCミニ」が盗まれるところから事件が始まる。
「DCミニ」を悪用した人物は、「DCミニ」を装着していない状態でも他人の夢に侵入することを可能とし、敦子の周りの人間は人格を崩壊させられてしまう。
黒幕は誰なのか?人々を悪夢から救うことはできるのか?といった話。

ストーリー自体は、わりと平凡だと思う。
犯人を探し、見つけた犯人を倒すというシンプルなもので、ミステリーというほどのトリックがあるわけでもない。

でも、それでもこの映画は観る価値がある。
なぜなら、平凡なストーリーに「他人の夢に侵入できる」というスパイスがふりかかっていることもあるし、なにより映像と音楽が素晴らしいのだ。
空を縦横無尽に自由に飛び回るパプリカ。
いる場所が変わり、ポーズが変わり、衣装が変わりとめまぐるしく動きまわるパプリカを追いかけるカメラワーク。観客は自分たちも一緒になって飛び回り、ものすごいスピードで追いかけているかのような錯覚を覚える。

Konsato061116c悪夢の世界では、古くなった家電や人形たち、招き猫、達磨、自由の女神、ブリキのロボットなどが魂がはいったかのように柔らかく動き、終わらない行進を繰り広げる。昔の日本でもてはやされて大事にされていたものの、便利な世の中になり捨てられてしまったものたちなのかもしれない。
奇怪な言葉を喋る人形たち。悪夢に侵された者は、一見賑やかなそのパレードにのせられて二度とは戻れない場所に連れて行かれてしまうという恐怖。このパレードの音楽が見事に映画を盛り上げている。
パレードで奇妙な生き物たちが盛り上がる様子は「千と千尋の神隠し」にどこか似ているかも。ちなみに、作画監督が同じ人。

おかっぱ頭の日本人形だったり、蝶の群れであったり、遊園地であったり・・・ちょっと軸がずれると恐怖を呼び起こすモチーフたち。特に青い蝶の大群は怖いだけでなく、美しい。

夢の世界なので、現実ならありえないようなことが起こる。
例えば、床が歪んで穴に落ちてしまうとか、人が人間ではないものに姿を変えるとか、空を飛ぶとか、同じ場面が繰り返されるとか、スクリーンを通り抜けるとか、写真の馬に乗ってしまうとか、何かの主人公になりきるとか。
そういった場面場面で、日頃自分が夢の中で体験している非現実的な出来事であったり、都合良く好き勝手にしていることであったり、何かに追われる悪夢の恐怖であったりというものを思い出す。

夢と夢が繋がり合った状態で、人と人が争ったら「自分の夢にいる人の方が強い」という設定がちょっと面白かった。たしかに、自分の夢だと自分の都合がいいように持っていけるものね。

物語後半では、夢と現実の境界がなくなってしまう。
悪夢が現実の世界を浸食してしまったのだ。
映画を通して自らの夢体験を思い出し、投影していた観客は、ここで自分の世界も夢と現実の境界が溶けてしまったかのような錯覚を覚える・・・といいのだけれど、そうしたかったんだろうなと思いつつ私はそこまではいっていけていなかったよう。
現実だと思っていたら夢だったというエピソードがいくつかあるので、このラストの現実世界に夢が浸食してきた様が、ただ夢の中の話のように感じてしまう。
また、最後にパプリカと黒幕が対決するのだけれど、終わり方はちょっとあっけない。

私たちが普段暮らしている世界も、視覚や聴覚で得た情報を脳が映像化しているに過ぎない。
私たちは実際にあるものを100%認識できるわけではなく、情報を端折って理解しているのであって、誰一人として同じものを見て聴いていることはない。
その脳に何かしらのことを施せば、幻覚だって幻聴だって起こりうる。
私たちが認識している「現実」と「夢」、その狭間は本当にはっきりとしているのか?
「幻覚」や「幻聴」と「夢」の違いは何?
現実と虚構の世界を決めるのは何か?
そういった問を投げかけられている気がする。

原作となった小説のほうでは精神分析学の用語が飛び交っているらしく、映画はだいぶそういう要素をそぎ落としたらしい。原作ではどういったストーリーで、あのパプリカが飛び回る様をどう文章で表現していたのか、ちょっと読んでみたい。

パプリカ [DVD]

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