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2006/11/04

ひとり日和

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ひとり日和
青山七恵
文藝賞受賞第一作

東京で暮らす為に引っ越してきた主人公知寿と、彼女が住まわせてもらう家の主吟子さん。
吟子さんは親戚でもなんでもなく、母親の知り合いのおばあさん。
若者と年寄りの一年の生活を描いた話。

この主人公は、何かと斜に構えているというか、愛情に飢えている人で、母親をどこか馬鹿にしている。
でも、何故そうなってしまったのかという部分を母親とのやり取りから読み解こうとしても、そういう部分がでてこない。

吟子さんは、鴨居のところに今まで飼っていた猫たちの写真を23枚も並べている。その量の多さと、「名前を覚えられない」という理由で全部チェロキーとよんでいるのだという吟子さんの発言に積み重ねた年月が垣間見える。
忘れない為に飾っているのかと思いきや、「思い出はあそこにはないの」という吟子さん。

主人公は子供の頃から手癖が悪く、身近な人が持っている何かを盗んで集めてしまう。
だが、吟子さんの元を去る時、こっそり盗んだ人形を元通りに戻しに行く。
そして、今まで収集してきた物たちはチェロキーの額縁の裏に1つずつ並べて行く。

この、亡くなった猫の額縁と主人公が収集してきた物との関係、これはなかなか面白いと思う。
物自身がどうというわけではないけれど、所有することに重点をおいてきた主人公と、歴代の猫たちの写真を飾ってはいるけれどそのことには重点をおいていない吟子さん。
主人公はそれまで持っていた心の空白を吟子さんとの生活によって埋められて、ちょっとだけ前に進めたのだなと思う。

でも、このエピソード以外は、なんていうか起伏がなくて退屈な話である。
だいたい、この主人公は中途半端に意地が悪いし、中途半端にやる気がない。
老人を尊敬するのではなく、同じ土俵で比べて羨ましがったりする幼稚さには呆れてしまうし、どこか諦めているせいで恋愛だってうまくいかない。そもそも私は、幼稚な主人公って感情移入ができない。そういうのが許されるのは思春期までじゃないのかなと思うし。ちなみにこの主人公は二十歳だ。

加えて吟子さんは悪い人じゃないのだけど、どこか悟り切っていて淡白過ぎる。
主人公を、ひねくれたやつにしたかったのなら、もっともっとひねくれさせてみて、吟子さんにはそれを癒す溢れんばかりの愛情を持たせてみるとか。
主人公を中途半端で味けのないやつにするなら、吟子さんをどこかぶっ飛んだおばあちゃんにしてみて、それに振り回されるうちに主人公がアクティブになっていくとか。
そういうキャラ付けでもうちょっと魅力的な話になったのではないかなと思う。

先日の綿矢りささんの作品もそうだったけど、乾いた恋愛のエピソードってつまらない。
乾いた=現代的とか若いとか 勘違いしているのだろうか。
恋愛に情熱を注げない主人公とか、悪い意味で幼稚な恋愛しかできない主人公って好きじゃない。

【関連記事】
第136回芥川賞 青山七恵「ひとり日和」受賞(芥川賞受賞に関するコメント)
「ひとり日和」文藝春秋選評について

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コメント

恋愛の彩りなどは、この作品を語る上で必要ではないと思いますが…。
駅と吟子さんの家という小さな道を境とした垣根を隔てた向こう側の空間。その対比は色々なエピソードにも関係してきますよ。作者の力量を測る前に自身の読解力なども向上なされてはいかがでしょうか。
芥川賞選評なども一読されるとよりよく理解できることもあると思うのでお勧めいたします。
駄文失礼いたしました。

投稿: 通りすがり | 2010/01/23 14:24

3年程前の記事になるのですが、以前は否定したいものはとことん否定というスタンスでblogを書いていたので気分を悪くさせていたらすいません。

関連記事にありますが、芥川賞選評は読みました。
http://le-chat-drop.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_23a2.html

作品の受け取り方というのは人それぞれですが、こういう見方もあるよ!と教えてもらうことはとても参考になります。
読む時期でも違ったりするので、今読んだらまた全然違った感想になるのかもしれません。

そういえば以前青山さんが文藝で発表された「出発」とても面白かったです。
http://le-chat-drop.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-57d4.html

コメントありがとうございました。

投稿: *yuka* | 2010/01/23 19:28

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