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2006/11/15

八月の路上に捨てる

八月の路上に捨てる
伊藤たかみ
第百三十五回芥川賞受賞作
★★★☆☆
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ちょっと前に文藝春秋に掲載されていたのを読みました。
伊藤たかみさんは、「無花果カレーライス」を読んでから一寸気になっていた作家。

飲料メーカーで自動販売機への補充の仕事をする主人公と同僚の水城さん。
水城さんに「いつ離婚するの」ときかれた主人公は、離婚に至る事になった経緯を回想するといった話。

主人公と後の奥さん知恵子が知り合った頃から回想は始まる。
二人は学生の頃身の回りのものに順位をつけて遊ぶ。「どうして冬が春より順位が上なのか、雨が晴れより上なのかに理由はなかった。〜〜本人たちにもわからない基準があったのだ。」など、二人だけのエピソードを無理につくろうとして失敗しているかんじがある。お互いが比較している様子を書くならともかく、数行でこれとこれではこれが上でした、理由は本人にもわかりません ではなぁ・・・。
後でこの順位付けの話がまた出てくるのだけど、それも意味を持たない。

主人公は脚本家を目指す為に定職にもつかず、就職した知恵子に生活費を頼ってしまう。
知恵子は「私が稼ぐから夢をおいかけて」というが、主人公はそんな彼女の態度にかちんときて、婚姻届を出す日もどこか不愉快な思いを抱えてしまう。
やがて、知恵子は人間関係のストレスで仕事を辞め、主人公がアルバイトを増やすことになり、二人の立場は逆転してしまう。そして、知恵子は夢を追いかけ始めるが、お金もないのにそんなことを始める知恵子を主人公は罵り、そこから決定的な亀裂がはいってしまう。

こういうエピソードって結構ある気がする。例えば魚喃キリコの「南瓜とマヨネーズ」はミュージシャンを夢見る彼の為にと生活費を稼ぐ主人公の話だし、山本文緒の小説でも身体の弱い彼女に「お前は何もしなくていいから」と言い渡し仕事を頑張る主人公の話があった。前者は、売春も浮気もしてしまう。
それらの話に共通しているのは、主人公が「自分が頑張らなくては」と勝手に気負って、頑張って、ヒステリーを起こすということだったり、主人公が相手の為にと思ってやっていることが、逆に相手を弱者の立場に追い込んでしまう残酷なことだったということだったり。
相手側の立場でいえば、自分の至らなさを責めてしまうのは主人公と一緒にいることが原因だから、いっそこの人のそばを離れてしまおうということになる。

主人公の浮気相手は、口のはしにヘルペスがある。
ラブシーンでこの水疱をつぶして蜜が流れる様子が丁寧にロマンチック風に描写されるのだが、ちょっと気持ちが悪い。私は皮膚が弱いので、手なんかに湿疹がよくできるのだけど、ぶつぶつしたものはどうあがいてもロマンチックにはならないのではないか?と思ってしまう。
主人公と知恵子の順位付けもそうだけど、浮気相手とのシーンも微妙なエピソードが多い。例えば西瓜と天麩羅の食い合わせの話から、スパイスをかけた西瓜の皮の天麩羅は見てくれは悪くても美味しいという話になると、「今ここにいる二人も、考えてみれば食い合わせの悪い二つの食材みたいなものだと、敦は思った。きっと悪くて美味いのだ。ここにはない魅惑の国の味がする。」と書かれている。
・・・さ、さ、寒いよ!!魅惑の国の味って何!?ありがちなかんじの浮気で悪さとかどこにも感じられなかったんですけど!!と、滅茶苦茶突っ込みをいれたくなる。

主人公と知恵子の関係が壊れ、どちらも病んでいくシーンになると、読んでいるのが息苦しくなってくる。
例えば、主人公は鰻を買ってくるのだけれど、知恵子が鰻を好きだからということと、こういうものを買うにはお金がいるんだよというあてつけの両方の意味が込められていたりする。こんなかんじで厚意と憎しみがどろりどろりと混ざり合っている場面がずっと続く。
やがて離婚することが決まると、それからは平穏な日々を過ごすこととなる。
多分、二人をぎゅうぎゅう閉じ込めていた箱の蓋がぱかっとあいたせいなんでしょうね。
二人とも、勝手に箱のサイズや形を決めて、それに無理矢理入りこんで自分たちを苦しめていたというかんじだもの。

わざとらしさと息苦しさを感じる回想シーンとは裏腹に、同僚の水城さんとのやりとりは自然で軽快。
でも、「濃さ」って点では回想シーンに負けてしまっていて何となく勿体ない。
養う側、養われる側の軋轢も、それぞれがきちんと描写されてはいるのだけど、魚喃キリコや山本文緒のように「言いたい事」がストレートに伝わって来ない。

結局この作品を読み終わったあとに感じたのは「小説らしく書いている小説」ということ。
部分部分、いい言い回しもあるし、壊れかけたカップルの憎しみと愛情がぐるぐる混ざり合っている様子を描写するのはうまいのだけど、前述したようなセンスのないエピソードが鼻につくし、色々なエピソードが詰まっているけれど芯になる部分もないし、私はあまり好きではない。
無花果カレーライスのほうが、粗いけれど好きだったなぁ。

選考委員同様、最近、病んだ人の話が多いなぁと感じる。
私はもっと感動できる小説が読みたいな。

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