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2006/11/21

裏庭の穴

「裏庭の穴」
田山朔美
第103回文學界新人賞受賞作

主人公が子供の頃の回想シーンから物語が始まる。
母親が真夜中に、裏庭を懸命に掘っている。
「なにを埋めたの」と主人公がきいても「なにも埋めていないよ」とこたえるだけ。やがて、主人公にはこの思い出が現実なのか夢なのかわからなくなる。
空に丸い月がでる、この真夜中の描写は幻想的で美しい。そして、何かが起こりそうな不穏な空気を残す。

場面は現在の主人公の世界へうつる。
娘がいる専業主婦となった主人公は、娘に頼まれてミニブタを買う。
欲しいと言った当の本人が全く豚に関心を持たないので、主人公は豚の世話を続け、やがて豚に確かな愛情を持っていく。家族の残飯を与え、豚はどんどん大きく育っていく。
その豚に対する愛情とは裏腹に、夫にも、娘にも興味を持てない。
夫の不倫相手、被害妄想を持つ隣人、マルチ商法にはまる娘の同級生の母親・・・それらの濃い人々の干渉も無関心でするりするりと抜けてしまう。
豚への愛情と周囲への冷め切った感情のアンバランスさが面白い小説。主婦の生活の描写や、濃い人々もリアルでいい。何より、新人とは思えないくらい文章がうまいので、とても読みやすい。
絵画的な描写をするわけではないのだけれど、そつなく書いてあるというか。

感情の起伏があまりなくて、どこか浮世離れした主婦の描写は、川上弘美さんっぽいかも。私がそう感じたのと同じように思ったのか、選考委員の松浦氏が「タイトルは豚でいいと思ったが川上弘美に【トカゲ】があるからまずいか」と言っていた。そうだ、「物語が、始まる」に収録されている「トカゲ」に話がちょっと似ている。ちなみに「トカゲ」は、幸運を招くトカゲを育てていく主婦3人を描いた奇妙な話である。動物を扱った寓話という点も同じ。

「裏庭の穴」のほうは、なんかとんとんと進んであっさり終わってしまったのが物足りない。
目眩を起こしそうな生温い空気に包まれて終わる「トカゲ」と比較すると、「オチつけました」っていう感じがしてしまうし。
冒頭の満月のシーンに絡めて、もっとより怖く終われたら私好みでした。

そういえば、選考委員の島田氏が高度情報資本主義の都も動物で溢れていると言ってミッキーマウスだの負け犬だのを例にあげていたのだけれど、「おやつの定番はコアラのマーチ」という発言には「えーそれはこじつけじゃないの?」と突っ込みをいれたくなった。コアラのマーチって今でもそんなに人気ある??昔は人気あった気がするけど。ポッキーとかが定番って言われたらわかるんだけどなぁ・・・。

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